無投薬!鹿児島の湧水で育った「旨水(うまみ)の鰻」【前編】
土用の丑の日は、国産鰻(うなぎ)が食べたい! この時期、トライアルで売り出されるのは「旨水(うまみ)の鰻」。養殖では実現不可能ともいわれていた「完全無投薬」で育てた国産鰻です。実際に、鹿児島県の産地に行ってきました!
全国一の鰻産地、鹿児島県で無投薬で鰻を養殖する
日本国内での養殖鰻(うなぎ)生産地のうち、国内シェア約35%の生産量を誇るのが鹿児島県です。養鰻の歴史は1960年代と、国内では後発でありながら、温暖な気候、シラスウナギが入手しやすい環境、豊富な水という好条件が、鰻の養殖を盛んにしてきました。
なかでも霧島山系のシラス台地を有する鹿児島では、きれいな地下水が豊富に湧き、この水を使って志布志市(しぶしし)、大崎町では鰻の養殖が広がりました。志布志市には「平成の名水百選」に選ばれた湧水池もあるほどです。
そのなかで、長らく不可能と言われていた無投薬の鰻養殖に成功したのが、志布志市に拠を構える「山田水産」。一般的に、鰻は病気の予防のため、基準値内で数種類の薬品が使われるのですが、山田水産は2005年に日本で初めて無投薬養殖に成功しました。
この無投薬の鰻のみで作られた商品が「旨水(うまみ)の鰻」なのです。
「旨水の鰻」が育てられているのは、志布志市に隣接する大崎町の指定養鰻場。その一つ「翔永淡水」では、設立された2005年からずっと、無投薬の鰻のみ養殖をしています。
場長の田中輝久さんは設立前に山田水産で無投薬の鰻養殖を学びました。以来、この養殖場の敷地内に住み込みで鰻のお世話をしているといいます。
ちなみに鹿児島県の鰻の養殖場はこんな風に、養殖池に屋根がついているのがスタンダード。屋根3つ分の下に一つの池があります。この造りは「台風銀座」とも言われる鹿児島ならではの工夫。屋根を3つにすることで天井を低くし、柱を多くすることで強度を持たせています。
また、池の水温を、鰻にとって最適な30℃に保つために、天井を低くして保温性を持たせているという仕組みです。
場長の田中さんが「池の水を抜いて天日干しをしている箇所があるので、入ってみますか?」と、特別に入れてくれました。
いつもはここに水が張られ、約3万匹の鰻が生活しています。鰻が大きくなって出荷されたら、水を抜いてきれいに消毒し、天日干しして殺菌します。
「無投薬で鰻を育てることは、難しいことではありますが、基本的には私たちが病気を防ぎ、健康的に生活するために心がけることと変わりないんです。ごはんは適量を食べて、適度に運動して、清潔な環境で過ごす。それがとても大事」
フレッシュさが命!の鰻のごはん
ここでは午前3時と午後3時の2回、鰻にごはんを作っています。
「主な成分はアジ、タラの魚粉。ジャガイモからとったデンプンを加えて練り上げます。今の時期は、成長した鰻に与える餌なので硬めのお餅状ですね。幼魚~稚魚期は柔らかめに練ります」
練り上がったタイミングに給餌用のトラックが来て、積んでは運びを繰り返します。練り上がりをすぐに鰻に与えることが大切、と田中さん。
「餌の中に入っているジャガイモにはデンプンが含まれています。餌の温度が上がるとデンプンが分解されてブドウ糖などの糖になってしまうんですね。その前、デンプンの状態で鰻が食べて、鰻のお腹の中でブドウ糖に分解・吸収させないと栄養にならないんです。魚の脂も酸化して劣化してしまう。だから、餌の練りだめはしません。1池分ずつ練っていきます」
成長段階によって餌も分けています。
「シラスウナギを餌づけする元池には担当者だけが出入りを許され、担当者は都度シャワーを浴び、洗濯した綺麗な服に着替えてからシラスウナギ専用の元池に入り餌やりをしています」
透明なシラスウナギが餌を食べると、お腹がピンク色に染まるのだとか。
「カニやエビのペーストを与えているので、餌の色が透けて見えるんです。つまようじ程度の大きさで、重さは0.17から0.18グラムと軽いので、餌を食べると餌の重みで沈んでいくんです。稚魚たちがピンク色に染まって水底に沈むまで、30分くらいかけて餌やりをするんです。離乳食みたいでしょう」
鰻を病気にしないために
鰻を見て、水を管理する
「最初から無投薬養殖がうまくいったわけではなく、最初の2〜3年は鰻が病気になって、悔しい思いをしたこともありました」と田中さん。そこで「環境整備と消毒の徹底」の大切さが身に染みたと振り返ります。
「我々人間も含め、消毒を徹底すれば病気からは鰻を守れるんです。あとは健康をどう保つか。食事量と環境作りだとわかったのは3年目くらいでした」
環境づくりとは、水温とpH値(水溶液がアルカリ性か酸性かを示す値)のコントロール、と田中さんは言います。
「鰻が動きやすい30℃に水温を保ち、鰻が最も活性化する弱酸性に環境を保ちます。その調整は、餌の量、鰻の量、光の量、鰻の動きなどでするんです。鰻が餌を食べたら、排泄をする。排泄物の中にアンモニアが入っていて、それをバクテリアが分解する。そうすると亜硝酸が増えて、鰻にとって好環境になる。このバランスをどう保つかがポイントなんです」
そこで結局できることは、と田中さん。
「もちろん水質検査などもできますが、何より大切なのは鰻を観察することなんですよね」
「人間の子供を育てるように、鰻を育てています」と田中さん。
「たくさん食べるからといって餌を与えすぎると胃もたれする。調子が悪そうなら餌を減らすし、水温を少し変えたりします。今、この場の鰻たちにとっての好適な環境を作っていくのが、私たちの仕事なんです」
後編では、無投薬で育った鰻を美味しく食べるための「捌き」と「焼き」の技についてご紹介します。お楽しみに!
無投薬!鹿児島の湧水で育った「旨水(うまみ)の鰻」【後編】
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